初心者登山教室机上講座(下)  ―― 地図・気象と山での病気と怪我 ――


登山教室

  初心者登山教室「机上講座」は6月23日に第1回講座を開催したあと、7月20日、8月23日と続け、会わせて5講座で実施した。登山のイロハから始まり医療まで、それぞれの分野のエキスパートに講師をお願いした。

 ・6月23日 山登りとは  (講師:酒井省二)
 ・6月23日 服装と道具  (講師:岡本恭宏)
 ・7月20日 地図の読み方 (講師:宮崎紘一)
 ・7月20日 気象と天気  (講師:城所邦夫)
 ・8月23日 病気と怪我  (講師:野口いづみ)

――地形図を読むこと、即ち現在位置を知ること  講師/宮崎紘一氏――
 宮崎講師はパワーポイントを駆使して地図の読み方を講義。地図は国土地理院が維持管理している「国土基本図」がベースになっており、さまざまな情報が等高線と凡例で表現されていると説明した。電子ポータルの国土基本図を操作してみよう。最初の全国の地図とともに、作図パネルが表示される。たとえば「三頭山」を選択し拡大すると、1/18000の縮尺で三頭山が表示される。A4サイズでプリントすることもできる。縮尺は、都市部では1/2500まで選択することができる。簡単で使いやすい地図である。
紙でも販売されている。印刷範囲が紙の大きさに区切られていて、ひとつの山で2枚も3枚も必要とすることがあるのが難点だが、使い勝手がいい。いい紙を使っている。雨に濡れても破れない。いちばん上の部分にスカシがはいっている。スカシのはいっている紙は日銀券のほか、一般にはみかけない。では、実際にどのように表現されているか―。たとえば山中湖/石割山にある403段の石段はこうだ、と実際の状況と地図の双方を映像で紹介した。山道、温泉、老人ホーム、崖の様子、針葉樹と広葉樹、湿原、雪渓など。


――山の天気は平地に比べて変化が激しく悪いことが多い  講師/城所邦夫氏――
 山の天気について。城所講師の解説が分かりやすい。山の天気は平地に比べて変化が激しく悪いことが多い、と説明した。みんな、そう思っているのだが、その理由を聞き納得させられる。山の温度の標高が高くなるにつれ低くなることも経験則として知っていることだ。この現象を「気温減率」ということを学んだ。気温減率は標高が100m増すごとに、およそ0.6℃の割合で低くなるという。奥多摩の山の気温を推定する方法として、1,500mぐらいの山頂や稜線では(標高1500m−山麓の標高200m=1,300m)とし0.6℃×1,300m=8℃程度となる。平地の八王子の気温が30℃とすれば22℃となる。これに風が加われば体感温度はさらに低くなる。風速1s/mにつき1℃くらい寒く感じるそうだ。風速10s/mだと10℃となる。防寒対策の必要なことを痛感した。


――登山は健康によいか  講師/野口いづみ氏――
 最終講義は野口いづみ医師。山での病気と怪我について、実例をまじえて教えていただいた。登山は健康によいか。よい点は、心肺機能を高める。病気を予防する(生活習慣病,認知症など)。精神的ストレスを発散させる(森林浴,仲間との遊びなど)。生活に目的意識が出来ること――など。注意点は、過度な身体的・精神的負担をかける場合があること。結論としては、良い点が多いが,注意も必要という。遭難の原因で、病気は転倒・滑落についで2番目に多いそうだ。運動によって血圧が上昇、心拍数が増加し安全限界まで余裕の少ない状況となる。山岳環境は寒く、気圧は低く低酸素である。 循環器系の病気として高血圧、また狭心症、心筋梗塞。かかりやすい病気として熱中症、低体温症。怪我は捻挫・打撲、骨折、すり傷、足のつり、虫刺されなど。それらについての対応、さらに常備すべき薬について教わった。 いくつかの実例を紹介された。69歳男性の心筋梗塞のケース。健康でトレーニングもよく励んでおり,十分な体力もあった。日高の山に登り下山後の宿のサウナで突然死した。登山後は脱水があり,さらにサウナで血栓ができやすい状況となって心筋梗塞を起こしたと思われる。登山後は水分を十分に補給し,脱水を補正してから入浴する。サウナには絶対にはいらない――と。実際に起きた事例だけに、説得力がある話だった。 初心者登山教室の5つの机上講座は、終わってみれば、いずれも内容が豊富であり、時間が足りなかった。受講生は、講義の続くことを希望した。机上講座と並行して行った実習登山の移動中のバスのなかで補講を実施した。
(文/橋重之 写真/澤登 均))

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