支部初めての「初心者登山教室」開講


登山教室

   ――多摩全域から30人参加、奥多摩三山登頂めざす――
東京多摩支部は6月23日、支部初めての「初心者登山教室」を立川市女性総合センターで開講した。立川市を中心に多摩全域から応募した30人が受講、次回に実施する御前山での実習に備えて講義に聞き入った。山の歩き方など登山の初歩の初歩を学習した。教室は、立川市教育委員会の生涯学習推進センターが主導する「たちかわ市民交流大学」の講座として開講した。市教委の募集した団体企画型講座に東京多摩支部が応募し、審査を経て企画・運営を担当することになった。立川市内の団体が応募する仕組みになっているので、東京多摩支部「立川部会」が担当する。キャッチフレーズは、山のベテランと楽しく奥多摩三山へ登ろう――。6回の講義を座学3回、実習3回に振り分け、御前山のあと三頭山、大岳山に登る。

――たちかわ市民交流大学団体企画型講座として実施――
長い道のりだった。日本山岳会東京多摩支部に登山教室プロジェクトチームを組織し繰り返し打ち合わせのための会合を持った。6月23日にようやく開講することができた。竹中支部長は開校式に臨み「多くの人たちに楽しく安全に山に登ってもらいたいと願ってきた。山登りの基礎を学ぶ機会はなかなかない。多摩をフィールドにして実践したい。講師陣は日本山岳会の豊富な知識・経験を持つベテランだ。スタッフがお手伝いをする」と開講の決意を語った。
初心者登山教室プロジェクトチームを組織したのは2月だった。前年11月には東京多摩支部の支部活性化プロジェクトチームが登山教室開設の必要性を提言していた。4月には日本山岳会が公益社団法人に移行し、公益目的事業の実施が義務づけられることになっていた。ブームといえるほど山登りが活発だ。多摩の山々で多くの人が山登りを楽しむようになった。なによりも安全で楽しく登ってほしい。初心者登山教室の開設は自然の流れだ。しかし、設立間もない東京多摩支部にとって荷が重い。どのようなカリキュラムを組めばいいのだろう。会場、講師、参加者の募集方法など、どれをとってもノウハウがない。
プロジェクトチームでの打ち合わせ会合を重ねるうちに、大船武彦委員の調べで、立川市が市民グループから講座企画を募集していることを知った。「たちかわ市民交流大学」の事業のひとつとして市民グループやNPO法人などが企画し運営する講座を募集していた。審査の結果、採用されれば実施会場を提供してもらい、場合によっては事業補助金を支給していただけるという。受講は立川市民でなくてもいいそうだ。
これによって、初心者登山教室の実現性が一挙に高まった。4月10日、24年年度事業に東京多摩支部立川部会として応募、と同時に採用を前提にして準備を進めた。登山教室の開講は初めてだったらしく4月の委員会で結論が出ず、やきもきしたが、5月15日には採用されることが決まった。会場は立川市女性総合センターを利用できる。「広報たちかわ」に開催案内を掲載し、さらにチラシを用意し立川市の学習館に配布してもらうことになった。もっと幅広く、多摩全域に広めたいという希望を伝えたところ、チラシを多摩地域の公共施設に配布する手続きを取っていただいた。
東京多摩支部での打ち合わせ、また立川市側の窓口となった立川市教委・生涯学習推進センターとの話し合いの結果、@募集人数は30人とするA対象は18〜60歳くらいとし申込順とするB受講料は2,000円程度とし、実習は登山口までバスを利用して費用を保険代などとともに負担してもらうC講座は、ほぼ3か月・計6回とし座学3回、実習3回に振り分ける―などとした。内部では@教室での講義/座学は集会委、実習登山は山行委が受け持ち、安全委、広報委などは、それぞれの役割を持つA登山の際は参加者を4つのグループに分け、リーダー、サブリーダーを配置するBバスのなかで実習に沿った講義を実施する――などを決めた。

――3000m級願うも、初回教室は“奥多摩三山”で――
実習をどこの山で行うのかが―議論となった。最終目標とかかわるだけに重要なテーマだ。「高尾山から富士山へ」、あるいは「北アルプスを縦走しよう」という案もあったが、高尾山は混雑し過ぎて実習の場として不向き。講座の回数が全体で6回に限られていて、それだけで北アルプスに出かけることもできない。
最終的には自らが企画し登山計画を立てて3,000m級の高峰を縦走、槍ヶ岳の頂上に立ってほしいと願うものの、それは二次・三次と講座を続けたのちに実現する。初回は多摩支部らしく奥多摩をフィールドにして行い、御前山、三頭山、大岳山とした。チラシは小山義雄委員が作成した。「山のベテランと楽しく奥多摩三山へ登ろう」がキャッチフレーズだ。
講師をだれにお願いするか―。これは、迷うことなく決まった。「医療と手当て、トレーニング」は野口いづみ、「気象と天気図」は城所邦夫、「地図の読み方」は宮崎紘一の各会員、「山登りとは」は酒井省二副支部長にお願いすることとした。元気象庁職員だったり、日本登山医学会の会長だったり、それぞれの分野で深い知識と経験を積み重ねてこられた。東京多摩支部の会員である。喜んで引き受けていただいた。
実習を推進するスタッフは、山行委、安全委などの委員が引き受けた。日本山岳会のすごいパワーとそれを発揮できる能力のあることに、改めて驚く一幕だった。

――下山するまでが山登り 小幅でゆっくり歩こう  講師/酒井省二副支部長――
初心者登山教室は6月23日、立川市女性総合センターで始まった。受講者は30人。たまたま、そうなったのだが、男女同数となった。年齢は募集要項で18〜60歳くらいと制限したため、バランスの取れた構成となった。立川市外からの参加者も多く、推進役になっていただいた立川市には申し訳ない気もするが、多摩全域から参加していただいた格好となった。
酒井講師は「山に登ってみたいと思ったのは中学生のときだった。そのころ物資がなかった。疎開先の福島県いわき市の高校で山岳部をつくった。阿武隈高原の700〜800mの山に登っていた」などと切り出した。設立したばかりの日本山岳会福島支部が高校向けのリーダー講習会を実施し、これに参加した。雪と氷の世界だった。参加者は、話のなかに引き込まれていった。
テキストに沿って話した。便利な世の中になった。装備がよくなった。情報があふれている。手軽に登山を楽しめる時代になった。自己流で登る人がふえてきた。それが事故の増加につながっている。山登りは楽しさや喜びを与えてくれる半面、危険とも隣り合わせだ。たとえベテランといえども大自然の中ではチッポケな存在で遭難もある。登山を目指す者は常に謙虚さを忘れずに、まず体力、自分の身は自分で守る心構えと、そのための技術の習得が大切だ。組織のなかで技術を教わり訓練して登ってほしい。
下山するまでが山登りだ。小幅でゆっくり歩こう。ネパールでビスターリという。“ゆっくり”という意味だ。靴底を地面にフラットに、平らにつけて歩こう。つま先あるいは、かかとから歩くと転ぶ原因となる。ひざをクッションにして歩こう。登りでもそうだし、下りでも同じだ。歩幅は、極端に言えば靴の大きさと同じくらい。腰を押し出すように、ゆっくり体重を移動させる。トラバース/斜面を歩くときは、体を山側に倒さない。足が浮いてしまう。「難所での歩き方」では、鎖場、梯子、ロープ、つり橋、木橋と続いた。続いて「パーティー登山の登り方」、「休憩の取り方」など。

――山靴は、場所と季節と荷物の重さで使い分ける  講師/岡本恭宏ICI立川店長――
装備については、ICI石井スポーツ立川店の岡本恭宏店長に話していただいた。日進月歩で進歩していく装備には、プロでないとついていけない。 靴は、登山靴と軽登山靴、ハイキングシューズに分かれる。マウンテンシューズとかライト・マウンテンシューズともいわれ、場所と季節と荷物の重さなどによって使い分ける。靴底の硬さと足首まで隠れるかどうか、などが判断基準となる。テントや寝袋を背負うなら登山靴、小屋泊まりで寝袋を持たないとなると軽登山靴、奥多摩や丹沢の日帰り登山だとハイキングシューズでもいい、といったぐあい。日帰りの荷物は5Kg、それに水を加え、だいたい7Kgぐらいを背負うことになるが、体重や脚力によって変わってくる。ガレ場のあるコースだと底の硬さが要求される。 アイゼンを付けるとなると柔らかい底はダメ。靴下の素材はウールと化繊。綿は使用しない。足はコップ半分くらいの汗をかくそうだ。ウールで吸収し化繊で速く乾かす。左右で5mmくらいの差があることも知ってほしい。ぴったりしたものではなく、1〜1.5cmくらい大き目の靴を履く。下る時に、つま先を傷めてしまう。履き慣らしは絶対に必要だ。1日15〜20分ほど10日から2週間はやってほしい。実物を持ち込んで話していただいた。講義は、雨具、ザック、ウェアなどに広がった。 (文責:橋重之)

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