自然保護講演会「高尾山人気の秘密と植生の不思議」報告


講演会

   日時   2020年10月29日(木)18時30分〜20時45分
   会場   立川市女性総合センター5階 第3学習室
   演題   高尾山人気の秘密と植生の不思議
   講師   森林インストラクター、樹木医 石井誠治 氏
   参加者  一般 一般 15名、会員 21名、計36名
   記録   文/河野悠二  写真/石塚嘉一

 今回の講演は、コロナ禍での開催で人数制限、体温測定、手指消毒、マスク着用と感染対策をして開催した。
<高尾山の魅力>
高尾山の名前は、日本中に結構ある。標高が一番高いのは甲州高尾山である。高尾山とは尾根の末端の最後の高まりからきている。高尾山のポイントは薬王院があったから高尾山の豊かな自然が残った。薬王院の周りは自然林(寺社林)で室町時代からの森が残っている。周辺は国有林、都有林や私有林が複雑である。薬王院に延びる尾根は東西に延びている。北面は低温体的植物、南面は暖温帯的植物が植生しており約1600種もの植物がある。都心からのアクセスも容易で三ツ星ミシュランに紹介されて以降1日3〜5万人が来る。
<自然を知る大事なこと>
会場に「サカキ」、「コウヤマキ」の枝を持ってきて回覧して、手で触ってもらい、目で眺めることの大事さを実感してもらった。サカキの葉の表(ツルツル)裏(ザラザラ)の違いは、表は雨などを流し、裏は気孔があり水が入らないように開閉する。葉っぱは3〜5年で落ちる。一方コウヤマキは10年位葉っぱが付いている。
<森の主役>
人口林の主役はスギ、ヒノキで、自然林(とは言っても人が入る所は伐採して使用する)の主役はブナのグループ(ブナ科)で落葉樹のコナラ、クヌギ、クリなど、常緑樹のシラカシ、アカガシなどのカシ類で、落葉をナラ、常緑をカシと呼び鳴らしている。ヨーロッパではイングリッシュオークが家具、ウィスキーの樽に使用され伐採しつくされ、明治時代に北海道のミズナラを伐採し、イングリッシュオークの替わりに輸出された。10年位前に日本海側のミズナラがナラ枯れになった。ミズナラはクマにとって大事な木なので奥山から里山に移動した。コナラ、クヌギは新炭林として利用された。両方とも風媒花であるが、ドングリはコナラは今年伸びた枝、クヌギは去年伸びた枝に付く。クリは昔は風媒花であったが虫媒花に変わった。雄花がほとんどぶら下がっており密が出る。雌花は花粉もなければ密もない。クリは1種のみで、日本グリ、中国グリ、アメリカグリ、ヨーロッパグリ(美味しくないのでマロングラッセにして食べる)などである。その他にもブナ科の樹木の説明があった。
草花については他に譲るとして、高尾山で特徴的な樹木は、イロハカエデ(タカオカエデ)、イロハモミジ(タカオモミジ)とブナ、イヌブナである。カエデ、モミジはもともと自生していた。
高尾山にはブナ、イヌブナがケーブル頂上駅近くにあるので観察して欲しい。ブナは雪下で芽を出し雪がなくなると二葉を出しその後本葉が出る。高尾山では雪が少なく乾燥しているので芽が出ない。天城山、三頭山も同様である。箱根にある函南原生林は一見の価値がある。
<シカの食害など>
平成12年までシカはいなかったがそれ以降監視カメラに良く写っている。シカは急斜面が苦手なので歩き易い尾根道沿いの植生が荒らされている。アオキを食べている。シカ対策で悩んでいる。
<ナラ枯れ>
ナラ枯れとは、カシノナガクイムシ(通称カシナガ)という虫がナラ菌を運び木の中にカシナガが入るとナラ菌が増殖し、導管をふさぎ、水が上がらなくなった木はやがて枯れてしまう。5年位前の台風により高尾山でも風倒木が増え、カシナガの居所になってナラ枯れが増えた。ブナ科コナラ属の樹木は全て対象となる。
<質疑応答>
質疑応答では、@カラマツが落葉する理由Aメイプルシロップに関係する樹液についてBナラ枯れの拡大状況や対策などの質問がありましたが、ここでは詳細を割愛いたします。

講演は終始石井講師の熱心でエネルギッシュなお話で会場を包み予定時間をオーバーするほどであった。