自然保護講演会「生物多様性の保全と地域づくり〜赤谷プロジェクトの歩み〜」


   日時   11月4日(金)18時35分〜20時30分
   会場   立川市女性総合センター5階 第3学習室
   講師   日本自然保護協会 松井 宏宇 氏
   主催   自然保護委員会

 今回の自然保護講演会は、創立65年の歴史ある自然保護活動を日本全国で展開してきた日本自然保護協会にお願いし、演題と講師を決めた。今回初めて一般公募したが参加者は28名であった。
講演は、日本自然保護協会の紹介でスタートした。日本自然保護協会は、暮らしを支える日本の自然の豊かさ=生物多様性を守る活動を半世紀以上実施してきた民間団体で、自然を「楽しむ」「知る」ことを守る力にした活動を主体に継続している。2015年度の活動は、意見書・要望書の提出34件、セミナー・講習会の開催67件、委員・講師の全国への派遣回数72件で、2万人を超える会員とサポーターにより活動され、その中で「赤谷プロジェクト」についてお話をされた。
 赤谷プロジェクトとは、群馬県旧新治村/赤谷川最上流部の国有林約1万haの森である。赤谷の森は、大正中期〜昭和初期まで、炭を作る時に発生する酢酸を製造していたが、1950年代後半に拡大造林政策により自然林伐採と人工林化され、ブナが多数伐採された。伐採されたブナは、カスタネットとして利用され一時は国内の8〜9割を生産した。1980年代に、スキーリゾート計画、川古ダム計画の大規模開発計画が浮上した。計画地は村の上水道の取水地でもあることから、1990年に大規模開発計画に対する住民の活動(新治村を守る会)が開始された。日本自然保護協会に相談の持ちかけがあり、国の天然記念物イヌワシのペアを確認し、1991年から日本自然保護協会との合同調査を開始した。イヌワシだけでなく、クマタカも確認し、猛禽類の行動圏と開発予定地のバッティングが明らかになった。1993年日本自然保護協会が林野庁前橋営林署に意見書を提出し、1999年「イヌワシ・クマタカの子育てが続く自然を守る」報告書を発行した。2000年スキーリゾート計画、川古ダム計画が時代の変化を受けてそれぞれ中止となった。また、森林に期待する機能が、木材生産から多面的機能へ、囲って守るから自然の賢明で合理的な利用へ、自然保護が変化していった。管理のされていない人工林は暗く、森林の様々な機能が低く、生物多様性も低く、日本の多くの森で重要なのは、量ではなく質であり、管理されていない、利用されていないことが問題である。この管理は、良い状態(持続可能性、生物多様性)を保つように処理することであり、赤谷の森を総合的な生物多様性を向上させる活動を、赤谷プロジェクト地域協議会、林野庁関東森林管理局、日本自然保護協会の三者が協定を結び、赤谷プロジェクトを推進して、5年が経過した。
赤谷の森が目指すのは、絶滅の危機に瀕しているイヌワシやクマタカ、ツキノワグマやニホンカモシカなど、たくさんの動植物が生息する貴重な森を舞台に、地域の方々や行政とも協力しながら赤谷の森をより豊かにして、その森の恵みを地域づくりにいかす活動をしている。活動の事例として、荒廃してしまった人工林を自然の森へ戻すために、スギやカラマツを部分的に伐採し、特に植林はせず、ブナ、コナラなどがどれだけ増えるか80〜100年の長期スパンで実施している。地域の方の提案で老朽化した治山ダムの中央部を壊し、自然の川の流れを復元して、洪水の危惧を含め水生生物のモニタリングを続けている。生態系の頂点にいる猛禽類であるイヌワシやクマタカの繁殖率などをモニタリングしている。餌(ノウサギ、ヤマドリ、ヘビ)の狩場を人工的に創出して個体数の増加を目指す日本でも初めての試みを進めており、スギ、ヒノキの人工林を2ha皆伐し、切開き、新しい狩場を作ったことにより、赤谷の森にも1ペアが生息するのみになっていたが、2016年に7年振りにヒナが育った良報もあった。
今後の赤谷プロジェクトの取組みとしては、@地域づくりにも生かしていく活動(カスタネットの復活、ふるさと納税の変換品に利用)A旧三国峠を歩こうなどのウォーキング整備Bニホンジカの低密度維持に向けて地元猟友会と連携を図り来年度以降捕獲を実施予定、である。
講演会の合間には、講師からクイズ形式で質問が出され、和やかに講演が進められた。なお、この講演の翌々日6日(日)NHK総合テレビ「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」〜イヌワシを守れ!子育て支援大作戦!〜が放映された。事前にこの情報があれば参加者も増えたのではないかと残念であった。また、この講演会を機会に日本自然保護協会との繋がりを大事にしていきたい。
(文/河野悠二  写真/澤登 均)

参加者
石井秀典、石塚嘉一、岡義雄、岡田陽子、小河今朝美、笠原功、鹿島陽子、亀島英治、川口章子、川尻久美子、北原周子、城所邦夫、小山義雄、澤登均、下田俊幸、辻橋明子、中村正之、西谷可江、西谷隆亘、濱野弘基、松川信子、河野悠二 22名、登山教室受講生:内藤誠之朗 1名、日本自然保護協会:早川雅裕、本間敏文、森田章義 3名、一般:大谷友子、益子千秋 2名 計28名