自然保護講演会「三ツ峠自然界における、アツモリソウ保護の歴史やその意義」

自然保護委員会


  日時   2015年11月5日(木) 18時30分〜20時00分
  場所   立川市女性総合センター5階 第3学習室
  講師   三ツ峠山荘主人 中村光吉 氏(映像操作 御法川直樹氏)
  参加者  石井秀典、遠藤興志郎、岡義雄、小野勝昭、笠原功、柄澤洋城、川口章子、城所邦夫、
         小山幸勇、澤登均、高砂寿一、高橋恵子、竹中彰、富澤克禮、中村哲也、中村照代、
         中村正之、西村智磨子、西谷隆亘、濱野弘基、廣田博、水谷弘治、守屋龍男、八木五郎、
         吉田敬、河野悠二 26名
         日本山岳会:島田稔、下田俊幸 2名
         登山教室受講生:市川俊彦、鹿島陽子、内藤誠之朗、中原美佐代 4名
         日本自然保護協会:川原昭三、鷹野邦人、鷹野三千代、深沢茂久 4名
         一般:樫村恵津子、神田榮子、水谷奥様、山之内登貴子 4名   計40名
         

 今回の自然保護講演会は、毎年6月下旬に、自然保護委員を中心にアツモリソウ保護のための除草作業とラン科植物のお話を聞きに三ツ峠山荘に行っていたのがきっかけで、東京多摩支部に入会された三ツ峠山荘のご主人中村氏に講師をお願いした。参加募集には、会員同伴での申込も可としたことで40名の参加者があった。
講師の中村氏は、美術大学出身のエネルギーに満ちた山の絵を描く画家でもあり個展なども開いている。美大卒業後は、ヨーロッパに行きスウェーデンで社会保障や自然保護の先進国として感化を受けた。帰国後は、家業の山小屋経営を継ぎ、父親が取組んでいたアツモリソウの保護活動も引き継いだ。保護活動として、盗掘の防止に、山梨県と条例の制定やニホンジカの食害から守るためのボランティア組織立上にも携わってきた。現在は、日本高山植物保護協会理事、山梨県希少高山植物監視員、環境省希少野生動植物種保護専門員などの要職を務めている。



 60年代からの園芸ブームで、マニアや業者による大量盗掘が相次ぎ全国にあったアツモリソウの大群落が消えてしまった。三ツ峠も同様であり、20年程前には250株程まで減少したが、現在は保護により500株程に戻りつつある。保護活動は、防鹿柵(盗掘防止も兼ねて)の設置やテンニンソウ・ササ・ヤマドリゼンマイなどの除伐やカラマツの下枝打ちなどを実施してきた。アツモリソウはラン科の多年草であり、袋状の唇弁を持つ花の姿を、平敦盛の背負った母衣(ほろ)を見立ててつけられた。また、この命名は熊谷直実の名を擬えた同族のクマガイソウと対をなしている。人類は6万年程の歴史だが、ランは8.5千万年程の歴史がある。日本のランは300種あったが、現在200種をきっている。



 ラン科植物は共生関係など生態系の微妙なバランスの上に成り立って生育し、虫媒花なので交配を助けてくれる虫の発生の時期に合わせて花をつける。花のつく向きも、虫は上昇気流に乗り、下から上へに飛ぶので、虫に見つかりやすいように、蕾は斜面の下に向かって茎を曲げ重力にしたがうように下を向いて咲く。ラン科植物は花がほぼ左右対称で唇弁が上にあるが、アツモリソウは180°捻じれて唇弁は下にある。アツモリソウの種子を持って来てもらい会場で回覧する。アツモリソウが発芽するためには、共生菌の存在が必要となる。共生菌は親株の近くにあるため、ほとんどの場合、親株近くで発芽する。そしてそれを取り巻くように、ほかのラン科植物が確認されることが多い。アツモリソウが増えれば、これらの菌根菌(共生菌)で発芽するラン科植物も増える。今後の注目は、株の世代交代である。講演を聞いていて、今後も、アツモリソウ保護活動の一助を継続していけたらと強く思った。
最後に、映像操作協力者の御法川氏から、渋沢丘陵・八国見山(秦野市)の墓地建設による自然破壊について、説明をしていただいた。この自然破壊の事例は、全くの初情報であり、このような情報をいち早く収集し、自然保護活動に生かせないかを考えさせられた。
閉演後は、講師を囲んで楽しい懇親会が18名で催された。
(文/河野悠二、写真/澤登均)