安全登山講演会 「登山におけるリーダーシップ、メンバーシップのあり方」


講演会

 実施日   2018年6月18日 18時30分〜20時40分
 会場    立川市女性総合センター5階 第3学習室
 講師    高橋清輝氏 (元立川女子高校長、東京多摩支部副支部長)
 参加者   58名
 記録    吉川三鈴

1.リーダーとは
 登山のリーダーは、登山目的によりいろいろも形態があるが、共通することは、リーダーは「統括者であり、メンバー全員の目標実現のための決定権を持ち、かつ全責任を負うこと」である。責任が持てないならリーダーになる資格はない。自信がないならリーダーになるべきではない。
2.リーダーの任務と責任とは
 リーダーには、大切な任務が3つある。「指導方針の決定、行動中の判断、結果に対するフォロー」である。
パーティーにとって一番大切なものは「メンバーの協力関係」である。従って、リーダーは登山計画作成の段階から登山の目的をはっきりさせて、メンバー全員に共通の目的意識をもたせることが肝心だ。そうすれば、リーダーはその目的達成のためにメンバーを誘導し、メンバーも協力する関係が生まれる。
3.リーダーの資格とは
 リーダーは、責任感があり、統率力、指導力に優れていること。経験豊かで技術、体力、精神力、判断力にも優れて社会性があることだ。そして重要な任務は「危険予知」である。事前に登山中に起きうる厳しい状況を想定して的確な準備ができるかだ。そしてリーダーとメンバーは日頃から信頼関係や絆を作っておくことも大事である。
4.メンバーシップのあり方
リーダーシップがあっても、メンバーにそれに従うルールとマナーがなければ登山活動は成り立たない。メンバー全員が、パーティーの行動責務を負う覚悟が必要だ。命を亡くした「メンバー間の仲間割れ」があり、「リーダーに従えない」という仲間割れもある。リーダーに従えないなら、リーダーを選んだ段階に間違いがあるのだ。
5.メンバーの責務と心得
メンバー間の「目的意識の共有」が大切だ。そうでないとパーティーがバラバラになってしまう。 リーダーはメンバーにやる気をおこさせ、メンバーはリーダーを引き立て協力し目的を果たすよう努力することが大切。「適材適所」も大切だ。リーダーはメンバーの得意分野を見出し生かすことが肝心。メンバーを適材適所で活動させることで、パーティーを旨くまとめて成功に導くことができる。
「ヒロインやヒーロー」を出さないこと。パーティーの成功も失敗もみんなで分かち合い、個人の優越感を持ち込まないこと。協力し合う助け合いの精神が大切である。
6.リーダーシップ等欠如と遭難の実例からの反省と教訓
 日本における2016年山の遭難者数は2929人(内319人死亡)で、多くの人が遭難事故に遭遇している。1955年から統計を取る高校山岳部の登山活動中の死亡者は250人で、尊い若い命が奪われている。これらを考えると、安全登山は真剣に取り組む重要な課題である。昔は、遭難事故が起きても遺族が訴えることは少なかったが、現在では殆どが裁判になっている。リーダー等が安全注意義務を十分に果しているかを問われることが多くあるので、このことを考えて登山活動することが重要であると言える。
 リーダーシップ等欠如による遭難事故について次の10事例を説明された。これらの事故は、避けようとすれば避けられる人的事故であり、前記のリーダーシップ、メンバーシップの必要性、重要性を具体的にお話しされた。特に、北海道幌尻岳での広島支部の遭難事故(パーティー8名中3名死亡)は、支部事故報告書に書かれているように、リーダー不在での計画作成、リーダー指示に従わなかったメンバーの行動、危険予知の欠如などは、顕著な「リーダーの選び方の問題」、「リーダーシップの問題」、「メンバーシップ(メンバー意思統一)の問題」である。このような事態は、私達周辺の活動の中でも存在し得る課題であると思う。広島支部の遭難事故は、私達にリーダーシップ、メンバーシップの重要性を教えてくれた貴重な教材として、大事に共有することが必要である。
◇リーダーシップ等欠如による遭難事故10事例
(1)福島・白河高校山岳部の奥那須甲子木沢での遭難(1955年5月)
(2)愛知・愛知大学山岳部の北アルプス薬師岳での遭難(1962年12月)
(3)東京・都立航空高専山岳部の中央アルプス木曽駒将棊頭山での遭難(1977年3月)
(4)静岡・社会人体育文化協会パーティーの八ケ岳横岳での遭難(1978年4月)
(5)神奈川・逗子開成高校山岳部の北アルプス八方尾根での遭難(198012月)
(6)大阪・関西大倉高校山岳部の八ケ岳赤岳での遭難(1982年4月)
(7)東京・だるま山の会の吾妻連峰での遭難(1994年2月)
(8)ツアー登山・北海道トムラウシ岳での遭難(2009年7月)
(9)栃木・高校体育連盟講習会の那須茶臼岳での遭難(2017年3月)
(10)広島・日本山岳会広島支部の北海道幌尻岳での遭難(2017年8月)