講演会「山を眺める楽しみ」 ――繊細な山岳展望図に驚く――


講演会

 東京多摩支部主催の講演会「山を眺める楽しみ」を10月17日、立川市女性総合センター・アイムホールで開いた。藤本一美講師は「展望の山旅」シリーズでおなじみの山岳展望図第一人者。描き続けた山岳展望図をプロジェクターで紹介しながら、“山を眺める楽しみ”を熱っぽく語った。講演会開催を朝日新聞が伝えたことなどから、127人(会員43人、一般84人)が参加した。
 講師は、鳥取県東伯町(現琴浦町)の生まれ。小学校へは2km、中学校は1kmの道のり。伯耆大山がいつも目の前にあった。山を眺めるのは、いまでも好きだ。中学3年生のとき、志賀直哉の「暗夜行路」を読んで伯耆大山の中腹からの夜明け前の描写に心を動かされたという。明治大学を経て、都立高校で地理の教諭を勤めた。生徒を屋上に誘い学校からの展望を語った。いい教材となった。いつの間にか、展望図を描くようになった。
1983年、航空写真をもとに大東京パノラマ鳥瞰図を描いた。船橋上空から見下ろした62年ごろの東京には、自然海岸が残っていた。遠く南アルプスを展望できる。もちろん富士山も。仕上げるのに4カ月かかったそうだ。日本は、首都からその国の最高峰を望むことのできる数少ない国である。スタンダールはパリから山が見えないと悔しがったという。
江戸時代は、鳥瞰図と言わなかった。たんに絵図と言った。たどれば雪舟「天橋立図」、司馬江漢「江島富士遠望図」、谷文晁「日本名山絵図」など。展望図を描くと同時に、古今東西の絵図・鳥瞰図を収集し始めた。自宅にはそれらの資料が山積みになっている。

<山を眺める効用>
@季節の移ろいを知る A知的探究心をくすぐる B山々の回想 C大気の汚染度を知る(視程観察)
D目の保養、ストレス解消 E心を落ち着かせてくれる F町並み・自然の変化を知る Gその他(各自いろいろ)

日本の都市から見える山々を集大成するのが夢だという。「秩父市から見える山」、「東武沿線から見える山」の展望図などから始まり、作品は多くの著書となって出版された。「展望の山旅」は4冊のシリーズとなった。いちばん新しい展望図は「高尾山大パノラマ」だそうだ。高尾山の展望レストランに頼まれた。スカイツリーもちゃんと描かれている。
眺めているだけでなく、山に登るようになった。八王子から見た展望図をプロジェクターが大映しにした。それをたどりながら、解説が始まった。
△大山(1252m) 雨降山の別名があるほどよく雲がかかる。大山/石尊山信仰。かつて13歳になると大山参りに出かけた。
△大岳山(1267m) たんに大岳(おおだけ)とも。さまざまなものに形容される。デベソ山、キューピー山、象山、お面、天狗の鼻、潜水艦、タヌキの太鼓腹、デスマスク、達磨、お子様ランチ、スフィンクス、妊婦、巨大なバスト・・・。東京湾の漁師は「鍋冠山」といった。大岳を目印にして魚場に向かった。
△雲取山(2017.2m) 東京都の最高峰。八王子市からは見えない。立川市の場合は市の北側から見える。
△武甲山(1304m) 江戸期の谷文晁が「日本名山絵図」で88の山を選定した (2山は2回登場)。武甲は「武光山」の名称で描写されている。北アルプスが見える。
話は尽きなかった。最後に、これまだ収集してきた絵図を紹介し、舞台で広げた。エベレスト、スイスの山岳展望図もあった。山の容姿をこれほどまでにしっかりと描くのは根気のいる作業なのだろう。会場からは、驚嘆の声があがった。
(文責:橋重之)