安全登山講演会「活火山と安全登山」         安全委員会


安全登山講演会「活火山と安全登山」

   日時   2016年7月20日(水)
   会場   立川市女性総合センター 第3学習室
   参加者  会員41名  一般4名
   講師   福岡孝昭(日本山岳会・科学委員会委員)

―― 現在50の火山が常時観察中 ――
 日本の活火山は、北方領土を除けば110もあり、現在50火山が常時観察されている。百名山のうち48が火山で、そのうちの31が活火山であることから講演会が始まった。
 活火山の定義とは、過去1万年以内に噴火した火山で、噴気活動だけの火山もある。実際に噴火したから火山というわけではない。
 地震活動については、火山活動は現在収まっていて、活動しているのは桜島くらいで、箱根は収まりつつある。日本の火山の活動が活発になったわけではないので、富士山が噴火することはないそうだ。
 火山と非火山の違いについて語られた。登山の対象としている山には火山と非火山があり、火山は地下深くで生じたマグマが地上に出たことにより生じた山。日本付近では、南の海から板状になったプレートが押している。断層は、その押された力が逃げるために生じたもの。非火山は地層が地球表層部のプレートの動きにより生じた力で歪曲されたり断層により隆起してできた山であり、どちらのタイプもその後の浸食や崩壊などによって山の形を変えていく。











―― 噴火は3つのタイプに分けられる ――
 噴火は、大きく分けるとマグマ噴火と水蒸気噴火、両方が混じったマグマ水蒸気噴火の3タイプに区別される。マグマ噴火は、山体下のマグマが上昇し地表に噴出したもの。水蒸気噴火は、山体下のマグマまたは熱い岩盤からの熱で地下水が加熱された熱水から生じた水蒸気の圧力が大きくなって古い山体を吹き飛ばして起こるもの。マグマ水蒸気噴火はマグマが上昇することにより山体下の地下水と接触し生じた高温の水上気圧で噴火が生じたもの。
 それぞれを識別は噴出物を見ることで可能になる。マグマ噴火の固体噴出物の大半は溶岩片などで、水蒸気噴火による固体噴出物は古い山体に由来したもの。マグマ水蒸気噴火の固体噴出物にはマグマが山体中の地下水と接触、急冷して生じたガラスが混在している。このタイプの噴火はマグマ噴火に変わっていく可能性があるので、噴火災害を考えるとき、ガラスの存在の有無の確認は重要だと言う。実際に収集した噴出物のパワーポイント映像を示しながら、ガラスの存在の有無が紹介された。





―― 御嶽山の噴火予知は難しかった ――
 全国50火山については、GPS測量、光波測量、傾斜計などによって、常時観察が行われている。予知については、水蒸気噴火の場合は地震、地殻変動ともに小さいので予知が困難であり、2014年9月の御嶽山の場合もこのケースだった。SO2(二酸化硫黄)火山ガスは高温になった場合にH2S(硫化水素)火山ガスより噴出量が上がることが多いので、噴火の前兆現象として有効だという。
 観測結果は「火山噴火予知連絡会」で吟味され、噴火警戒レベル(1〜5)が判断され、噴火の警報・予報が行われる。
■噴火警戒レベル
レベル1 活火山であることに留意
レベル2 火口周辺規制
レベル3 入山規制
レベル4 避難準備
レベル5 避難

 御嶽山の場合、常時観測対象であり観測は行われていた。噴火警戒レベルは1だったが、山体下は完全に静穏でないことはしばらく前から分かっていた。これは地元自治体にも伝えられていたが、登山者には伝わっていなかった。水蒸気噴火であったこともあり、その変化が小さく、警戒レベルを2に上げたのは噴火後になってしまった。ここには、現在の観測体制その他多くの問題が係わっている。しかし、どうやって予知をしていくか。いつ、どこかで、どのくらいのスケールか。終了はいつか。こういったことは現代の技術では不可能であると言う。





―― 携帯電話で火山情報把握を ――
 次に活火山の安全対策について語られた。ヘルメット(帽子)、長袖、長ズボン、手袋を着用し、手拭い、マスク、ゴーグル、ヘッドランプなどの携行が大切で、携帯電話は常時スイッチをオンにしておき、噴火速報などの緊急速報メールの受信ができる状態にしておく。火口や噴火口の位置と地形、登山コースの把握。山小屋、シェルターも確認しておく。気象庁のホームページの火山情報も有用である。
登山中に噴火に遭遇したときの行動を別表に挙げておく。
 登山はあくまでも自己責任で行われるべきで、火山全体についての知識を深めて欲しい。安全で楽しい登山になるよう願っていると締めた。





 質疑応答では「登ろうとする山が活火山だったらどんな用意が必要か」という質問が寄せられた。
これについては、
・常時活動している火山に関しては気象庁に問い合わせることが可能。
・気象庁としてはレベル1だと噴火しないと言いたいが、それはできない。
・公表しない場合もある(とくに観光地は難しい)。
・津波は海が震源地の場合のみ起きる。
・微動は何らかのシグナルを出している
・地震は絶対に起こるので防災教育は大事。
また、「噴火の規模の予知はあるのか」という質問については、
・規模の予知もやらないといけない。
・どんなタイプの噴火が起こるのか明確に言えるといい。
と結んだ。
(文/中村美奈子 写真/石井秀典、小山義雄)




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