安全啓蒙登山講演会


   日時   2014年11月26日(水)
   会場   立川市女性総合センター 第3学習室
   参加者  石井秀典、岡 義雄、河野悠二、小泉 賢、酒井省二、竹中 彰、富永真由美、
          中村美奈子、西村智磨子、西谷隆亘、平井康司、山本憲一、若村勝昭、小山義雄
          計14名
   講師   秋葉久夫氏

―― 出動する救助隊の人数に驚く ――
 講師の秋葉氏は、元奥多摩消防署山岳救助隊大隊長で、現在、消防教育指導員。1971年に東京消防庁に入庁し、2010年に奥多摩消防署の山岳救助隊に赴任した。今回の講演会では、現場での活動を中心に救助の様子を語っていただいた。
 始めに、過去に放映されたテレビ取材番組で救助隊のアウトラインが紹介された。その後、実際に行われた救助活動のスライドとともに救助の実態説明に移った。
 紹介されたのは、鷹ノ巣山周辺が2件、西川林道、大丹波ヒナタ沢、九重山。それぞれに詳細な救助活動のテキストも添付され、いつ、どこで、どのような人が、どのような傷病で、どのように救助されたが記述されている。
 興味深かったのは、一件の事故で出場(出動)する人数の多さだ。例えば、石尾根のネズミサス尾根に迷い込んで転滑落した42歳男性の救助には「奥多摩山岳救助隊、奥多摩救急隊、奥多摩指揮隊、青梅山岳救助隊、日向和田2・1小隊、日向和田1小隊、八本部排煙、奥多摩広報、日野補給、消防ヘリ・かもめ、消防ヘリ・ゆりかもめ、緊急配備として熊川1小隊、秋留台A」が救助に向かい、または態勢を整えていた。
 スライドでは、そうして出場したそれぞれの救助隊が50度の雪の斜面を懸垂下降で要救助者に近づく様子、複雑に張り巡らされたロープ、要救助者への手当、30mのロープブリッッジ構築、ヘリ収容ポイントまでの搬送などの様子がリアルに映し出された。さらに、10数人が一団となって危険な急斜面で遭難者を引き上げる様には頭が下がる。
 秋葉氏は、急斜面が多い奥多摩での事故は、大事故につながることが多いと言う。また、遭難は運に左右されることもあると続ける。例えば、御嶽山では噴石に当たった人、当たらずに済んだ人がいる。雲取山で8日目に助かった画家はかなり運がよかったのだろうとも。
 東日本大震災では、水門閉鎖に携わった消防団員が59人亡くなった。しかし、ある地区では25人全員が助かった。それは、津波襲来時に15分で水門が閉鎖できなければあきらめろとうルールがあったからだ。こうしたルールがなければ、助かる人も助からないと言う。

―― 適切な救命手当ができるのは消防署 ――
 奥多摩での事故は単独行者の道迷いが多い。そのうえ、見た目からか高尾山と同じよいうな気分で登る人が多く、夕方から登り始める人もいる。そうしたこともあってか、毎年2〜3人が行方不明になっている。そういう人に限って、家族にもどこへ出かけるかを伝えていないようだ。登山届けは救助の大きな目安になるので、ぜひ届けを出していただきたいと強調する。
 御嶽山では当日の登山届けを出していた人は長野県側が33人、岐阜県側が25人しかいなかったという。両県が登山届けの義務化を検討していると語った(岐阜県は12月1日から罰則付きで実施した。さらに、御嶽山では来年4月からの罰則付で施行されることが決まった)。
 救助した遭難者からの礼状が読み上げられた。当事者は、川苔山へ続く登山道から落ち葉を踏み抜いて150m滑落し、全身30カ所を骨折したとか。内容は感謝の気持ちに満ちたもので、救助活動の様子をスライドで見たあとだけに素直に受け入れられるものだった。
 秋葉氏は、道に迷ったら分かる場所まで戻ること。むやみに木につかまらず枯れていないかどうか確かめること、深い落ち葉はその下をよく確かめることを挙げてくれた。また、雪のある時期にもかかわらずアイゼンを携帯していない人が多い。冬季は軽アイゼンくらいは持って欲しいと訴えた。
 いざというとき、警察か消防のどちらに連絡したらいいかという質問では、警察は複数ある駐在所から救助に向かうことができるが、消防署は奥多摩の一カ所から向かう。先に警察の救助隊が着いていることが多いそうだ。しかし、消防署は適切な救命手当が可能。「もしかしたらヘリコプターの操縦もうまいかも知れませんよ」と冗談を交えながら胸を張っていた。
 さらに、警察は行方不明者の捜索を行ってくれる。非番にもかかわらず捜索してくれる人もいる。消防署は場所が分からないと出場できない。捜索もできない。そうした違いも理解していただければと結んでくれた。
 現在、奥多摩消防書には約50人の署員がいる。そのうち山岳救助隊員、救急隊、指揮隊が3交代で36人。訓練は毎日行っているが山岳救助訓練は全体の7割と多い。訓練場所は消防署の目の前の高台にあるグラウンド近くだそうだ。
(記録/小山義雄)